相続税の申告が必要ないのはどんなケース?
相続が発生したとしても、相続税を納めることになるとは限りません。さらに、申告自体が不要となるケースもあるのです。
ではどんな場合なら相続税の申告が必要ないのか、ここでは法律に基づいてその要否について解説していきます。
申告不要となる3つのケース
「相続税の申告をしなくてもいい」といえるのは、主に以下3つのケースに分けられます。
- 相続税の課税対象となる財産を取得しなかった場合
- 相続財産の合計額が基礎控除額以下の場合
- 特定の控除制度により納付額が0円になる場合
①に該当しなかったとしても②に該当すれば不要ですし、②に該当しなくても③に該当すれば申告は不要です。段階的にその必要性を見ていきましょう。
相続税の課税対象となる財産を取得しなかった場合
相続人だとしても、実際に相続財産を取得していないのなら申告の必要はありません。
相続税の負担は「相続人かどうか」ではなく、「財産取得の有無やその金額」に着目して決まるからです。
そして財産を取得しない状況としては、次のような例が考えられます。
シチュエーション | 詳細 |
---|---|
相続放棄をした | 相続開始を知った日から3ヶ月以内に家庭裁判所に相続放棄の申述をした場合のこと。 相続放棄が受理されると、最初から相続人ではなかったものとみなされ、財産の相続も起こらない。 ※ただし、遺言書の指定に従い、受遺者として財産を取得した場合は別。 |
遺産分割協議で取得しないこととした | 遺産分割協議の結果、特定の相続人が財産を取得しないことで合意した場合のこと。 取得が強制されるものではないため、遺産分割協議で相続割合を調整することは可能で、まったく取得しないことも可能。 |
第三者にすべて遺贈されていた | 亡くなった方が遺言書を使って第三者にすべての財産を遺贈していた場合のこと。 原則として遺言書に従うことになるため、相続人であっても相続はできない。 ※ただし、一定の相続人については遺留分の主張により、遺産の一定割合を金銭で支払うよう求めることは可能。 |
相続人としての欠格や廃除 | 非行・違法行為に基づき相続人としての資格を失った、あるいは亡くなった方が名指しで相続人から廃除することを求めていた場合のこと。 |
相続財産の合計額が基礎控除額以下の場合
相続財産を取得していても、各人が取得した財産の価額を合計して基礎控除額以下であれば、課税価格がゼロとなりますので相続税の申告も不要です。
相続税に係る基礎控除額は次の算式により求まります。
基礎控除額 = 3,000万円+(600万円×法定相続人の数)
相続人の構成 | 計算 | 基礎控除額 |
---|---|---|
配偶者、実子1人 | 3,000万円 + (600万円 × 2人) | 4,200万円 |
配偶者、実子2人 | 3,000万円 + (600万円 × 3人) | 4,800万円 |
配偶者、実子3人 | 3,000万円 + (600万円 × 4人) | 5,400万円 |
配偶者のみ | 3,000万円 + (600万円 × 1人) | 3,600万円 |
実子3人(配偶者なし) | 3,000万円 + (600万円 × 3人) | 4,800万円 |
配偶者、実子1人、養子1人 | 3,000万円 + (600万円 × 3人) | 4,800万円 |
父母のみ(配偶者・子なし) | 3,000万円 + (600万円 × 2人) | 4,200万円 |
このときの「法定相続人」の数え方には注意が必要です。ひとつは、相続放棄をした人についても法定相続人としてカウントする点。
もうひとつは、養子に関して特別な制限が設けられている点です。
実子がいる場合は養子を1人まで、実子がいない場合でも養子2人まで、が法定相続人としての計算対象とされているのです。
※特別養子縁組による養子については、この人数制限の対象外。
なお、基礎控除を適用する相続財産には、通常の相続財産に加えて「一定期間内の生前贈与財産」や「相続時精算課税の適用を受けた財産」も含まれます。
また、死亡保険金や死亡退職金についても非課税限度額(法定相続人の数に応じた非課税枠が設けられている)を超える部分が相続財産に加算されます。
特定の控除制度により納付額が0円になる場合
基礎控除額を上回る相続財産等があったなら、基本的に申告が必要と判断できます。
ただ、特定の税額控除の適用を受けて、もし納付額が0円になるのなら申告は必要ありません。例えば次の税額控除です。
- 未成年者控除
- 相続人が未成年者である場合に適用される控除
- 18歳に達するまでの年数1年につき10万円の控除
- 障害者控除
- 相続人が障害者である場合に適用される控除
- 85歳に達するまでの年数1年につき10万円(特別障害者の場合は20万円)の控除
他方、納付税額が0円になる場合でも、以下の控除制度を利用する場合は必ず申告が必要です。適用要件として申告が求められているからです。
- 配偶者の税額軽減(配偶者控除)
→ 配偶者が実際に取得した正味の遺産額が、配偶者の法定相続分相当額と1億6,000万円のいずれか大きい金額以下まで控除ができる仕組み。 - 小規模宅地等の特例
→ 宅地等の相続税評価額を最大で80%減額できる特例。
控除制度の適用を検討する際は、その控除が申告を要件としているかどうかを確認することが大事です。
申告要否の判断を誤った場合の問題
相続税の申告要否の判断を誤り、本来必要な申告を行わなかった場合、無申告加算税や延滞税などのペナルティが課されて、本来の負担より大きな税負担が発生してしまいます。
また、相続税については連帯納付義務があるため、他の相続人に迷惑をかけることにもなりかねません。
そこで申告要否については慎重に検討する必要があります。特に以下の事項については注意しましょう。
- 相続財産の評価額の適切な算定(特に不動産の評価)
- 相続開始前の贈与財産の有無と金額
- 死亡保険金・死亡退職金の受取状況
心配だという方は税理士にご相談ください。