相続税がゼロでも相続税申告が必要なケース| 税額控除や特例の適用時は要注意
相続は誰にでも起こり得るものですが、相続税の納付は常に必要なものではありません。基礎控除の適用などにより相続税がゼロになることも多いためです。
ただし、「納める相続税はゼロだから申告をしなくていい」と考えるのは危険です。申告だけが必要になるケースもあるのです。
どんなときに申告が必要になるのか、逆にどんな場合に申告が必要ないのか、当記事でご確認ください。
申告が必要なケース:相続税の納付額がある
相続税の計算を行い納付すべき税額があるとわかったときは、申告も常に必要です。
相続税の納付と申告は常にセットであると覚えておきましょう。
いつまでに申告しないといけない?
納付および申告をしないといけない場合、相続開始を知った日の翌日から10ヶ月目の日までに済ませましょう。
もし被相続人が亡くなったことをその日に知ったのなら、亡くなった日の翌日から10ヶ月です。
亡くなったことを知ったのが死亡日3日後なら、その3日分は申告期限も後ろ倒しとなります。
税額控除で税額がゼロになるケースは要注意
納めるべき税額はゼロでも、申告が必要なケースがあります。
それは「税額控除や特例の利用で納付額がゼロになった場合」です。
厳密に言うと、“適用を受けるには申告をしないといけない税額控除や特例”を利用したときであり、例えば以下の制度を利用するなら申告をしないといけません。
- 配偶者の税額軽減
※被相続人の夫・妻だけが利用可能な税額控除。法定相続分または1億6,000万円までなら課税を軽減することができるため、配偶者は納付額をゼロにすることができるが、配偶者控除の適用を受けるなら遺産分割協議の確定と申告が必要。 - 贈与税額控除
※特定の贈与財産は相続財産に加える必要があるところ、当該贈与財産に関して贈与税を納めているときは、二重課税を避けるために贈与税額控除を行う。 - 外国税額控除
※外国に財産があり、当該外国にて相続税相当の課税を受けたとき、二重課税を避けるために外国税額控除を行う。 - 小規模宅地等の特例
※特定の土地を相続したとき、特例により評価額を下げられるケースがある。最大80%もの減額ができるが、このとき納付額がゼロになっても申告は必要(特例の適用を受けようとする土地の遺産分割協議の確定など諸条件有ります)。
これに対して「未成年者控除(相続人が18歳未満なら適用可能)」や「障害者控除(相続人が障害者であって85歳未満なら適用可能)」は申告が適用要件とされていないため、税額控除により納付額がゼロになるときは申告をしなくてかまいません。
申告を忘れるとどうなる?
相続税の申告は法律上の義務です。この義務を果たさない場合、ペナルティとして「無申告加算税」を科されてしまいます。
無申告加算税の要件 |
増差本税に対する課税割合 |
---|---|
無申告であることに「正当な理由」がある場合 |
不適用 |
税務調査の事前通知より前に自主申告した場合 |
5% |
税務調査の事前通知後に自主申告をした場合 |
10% ※本税50万円超~300万円の部分には15% ※本税300万円超の部分には25% |
税務調査により指摘を受けてから申告をした場合 |
15% ※本税50万円超~300万円の部分には20% ※本税300万円超の部分には30% |
また、本来相続税を納めないといけなかった期日を過ぎてしまったことに対して次のように「延滞税」もかかります。
延滞税の要件 |
本税に対する課税割合 |
|
---|---|---|
納付期限から2ヶ月以内の場合 |
次のいずれか低い税率 |
|
年7.3% |
特例基準割合+1% ※2023年以降の特例基準割合は2.4% |
|
納付期限から2ヶ月を過ぎた場合 |
次のいずれか低い税率 |
|
年14.6% |
特例基準割合+7.3% ※2023年以降の特例基準割合は8.7% |
※特例基準割合とは、金融機関の短期貸出金利の平均値から導き出される割合のこと。
そのため無申告とならないよう、申告の必要性については慎重に評価する必要がありますし、申告ができていないときはできるだけ早めに対応することが大事になってきます。
申告が不要なケース:遺産が基礎控除以下
相続税の計算をするときは、遺産各種について相続税評価額を算定し、その合計額に基礎控除を適用します。
基礎控除の適用により課税価格がゼロになれば納めるべき相続税もゼロとなります。
そして基礎控除は常に適用可能であるため、「遺産の総額が基礎控除額以下なら申告は不要」といえます。
なお、この評価を行う際は以下の点に注意してください。
- 遺産の総額を調べるときの注意点
- 相続人の取得した相続財産のほか、遺言書に従い第三者が受け取った遺贈分も含める。
- 贈与済みの財産を含めないといけないケースもある。
- 相続債務や一定の葬式費用については控除できる。非課税財産とされるものについては課税対象から除かれる。
- 基礎控除額を調べるときの注意点
- 基礎控除額は法定相続人の人数に対応するが、養子については最大でも2人までしかこの人数に含められない(実子がいるときは1人まで)。
- 相続放棄をした方がいても、法定相続人の人数に含めます。
どんな財産が課税対象?
例えば遺産の総額が4,000万円だとしても、それ以上の基礎控除があれば相続税は課税されません。
そして実際、基礎控除額が4,000万円を超えるのもそう珍しいことではなく、法定相続人が2人いればこの額を超えてきます。
※基礎控除額の計算方法:3,000万円+600万円×法定相続人の人数
基礎控除額の計算は簡単ですが、遺産の総額について調べるのは簡単ではありません。
財産一つひとつの評価が必要で、土地や非上場株式などがあると複雑な計算も必要となります。
また、「相続財産」や「遺贈された財産」だけでなく、以下の財産についても課税対象ですので漏れなく調査して相続税評価額を算定しないといけません。
- 相続時精算課税を受けた贈与財産
- 相続開始前7年以内の贈与財産
- 相続開始の4年より前の分についてはその合計から100万円を控除できる。
- 2023年以前の贈与財産については過去3年分に限る。
- みなし相続財産
- 生命保険金(被相続人が保険料を負担していた場合)
- 死亡退職金 など
相続税申告が必要かどうか、判断が容易なケースもあればそうでないケースもあります。少しでも不安があるなら税理士に判断してもらいましょう。