相続税における配偶者の税額軽減とは?メリットや注意点など
多額の遺産を受け取ると相続税も大きくのしかかってきます。しかし夫婦間の財産の移動は、その他の人物間で起こる移転とは性質が大きく異なります。
そこで配偶者に関しては税負担を軽減する措置として「配偶者の税額軽減」の仕組みが設けられています。
納付額を大幅に減らせる、あるいはなくせることも多く、とても効力の大きな制度といえます。
ここでこの配偶者の税額軽減について解説し、メリットや適用を受けるときの注意点をまとめます。
配偶者控除とは
配偶者の税額軽減とは、亡くなった方(被相続人)と婚姻をしていた夫や妻だけに認められる相続税額の軽減のことです。
相続税法に規定が置かれていますが「配偶者控除」という名称で定義されているわけではなく、「配偶者の税額の軽減」や「配偶者に対する相続税額の軽減」などと表記されます(法律的には「控除」と「軽減」は異なります)。
他にも相続税の計算上次に挙げるような控除制度があるのですが、配偶者の税額軽減はこれらどの控除と比べても圧倒的に大きな効果を発揮することができます。
《 相続税に関する税額控除 》
●未成年者控除:18歳未満が適用を受けられる。年齢に応じて控除額が定まる。
●障害者控除:85歳未満の障害者が適用を受けられる。年齢に応じて控除額が定まる。
●贈与税額控除:生前贈与加算された財産について贈与税を納めている方が適用を受けられる。その財産について納めた贈与税額が控除額になる。
●相次相続控除:過去10年以内の相続に関して二次相続があったときに適用を受けられる。一次相続からの期間に応じて控除額が定まる。
●外国税額控除:外国で相続税を納めている方が適用を受けられる。外国で納付した税額が控除額になる。
控除額の計算方法
配偶者の税額軽減の効果を端的に説明すると、「相続した財産が法定相続分に収まる範囲なら納付税額が0円になる」「取得した財産が法定相続分を超えるときでも、その価額が1億6,000万円以下なら相続税額が減額になる」と、このように言うことができます。
取得した経路は遺産分割協議であってもかまいませんし、遺贈(遺言書を使った財産の譲渡)であってもかまいません。
借金等(配偶者が負担)の価額を差し引いた正味の遺産額がこれらの金額以下であれば相続税の負担はなくなるか軽減されます。
軽減される額は次の計算式で求められます。
軽減額 = 相続税の総額×(「課税価格の合計に配偶者の法定相続分を掛けて算出される金額」と「1億6,000万円」のどちらか大きい額と、課税遺産の総額のうち配偶者に係る部分の金額のいずれか少ない方)÷課税価格の合計額
仮に、相続税の総額を3,000万円、相続人は配偶者と子どもとし、配偶者が遺産9,000万円のうち2/3を取得したとしましょう。
このときは次のように求めることができます。
軽減額 = 3,000万円×(9,000万円×1/2と1億6,000万円のどちらか大きい額、また6,000万円とのいずれか少ない方)÷9,000万円
= 3,000万円×6,000万円÷9,000万円
= 3,000万円×2/3
= 2,000万円
配偶者の相続税額は3,000万円に実際の取得割合である2/3を乗じた2,000万円ですので、制度を適用して納付すべき額はゼロとなります。
法定相続分を超えて取得しているもののその価額が1億6,000万円を超えておらず、全額控除できる計算になっています。
では次に、遺産4億円を法定相続分で分割した場合であって、その他の条件は同じであると想定して計算をしてみます。
控除額 = 3,000万円×(4億円×1/2と1億6,000万円のどちらか大きい額、または2億円のいずれか少ない方)÷4億円
= 3,000万円×2億円÷4億円
= 3,000万円×1/2
= 1,500万円
この場合は配偶者の取得価額が1億6,000万円を超えていますが、法定相続分で取得していますので、結局全額が軽減されています。
配偶者控除を使うメリット
配偶者の税額軽減を使うメリットはやはり「相続税の負担が大幅に小さくなる」という点にあります。
法定相続分を超えなければ多額の遺産を受け取っても相続税は軽減されます。法定相続分を超えたとしても1億6,000万円以下ならやはり軽減されます。
いずれの基準を上回って取得したとしても、大きく軽減されて、取得した財産の大きさの割に小さな納付額で済みます。
配偶者控除を使うときの注意点
配偶者の税額軽減は配偶者にとって非常に有益な仕組みですが、申告手続を忘れてはいけません。
また、今後の相続で親族にかかる相続税の負担についても考慮した方が良いです。
納税額が0円でも申告が必要
基本的に、納付すべき相続税が0円(課税価格が基礎控除以下)であるときは申告作業も必要ありません。
しかしながら配偶者の税額軽減の適用を受けるには申告が必要ですので、税額軽減の適用の結果、税額が0円になるとしても申告は省略することができません。
戸籍謄本等を添えて自らが配偶者であることを証明できるようにして、申告書を提出します。
また、取得した財産の内容を証明する必要もありますので、遺産分割協議書の写しや遺言書の写しなども添付します。
相続の事実を知った日の翌日から10ヶ月以内、という期限にも注意しましょう。
二次相続でかかる税負担も考える
配偶者の税額軽減を頼れば、多額の遺産を取得しても税負担を少なくすることは可能です。
ただし、当該配偶者が亡くなって相続(二次相続)が開始されたとき、その子どもなどの相続人が大きな遺産を受け取ることになります。
ここで(軽減されていた)大きな税負担が発生する可能性がありますので、要注意です。
一次相続の時点で子どもたちにもある程度遺産を分けていれば、一次相続と二次相続で発生した相続税の全体額は低く抑えられることもあるのです。
税理士に相続税のシミュレーションをしてもらうと、どのように分割するのが節税の観点から有効であるのかがわかりやすくなります。