ぎりぎりでする相続税対策| 相続開始前と相続開始後でできることと注意点とは
相続税対策にはできるだけ早く取り組むことが重要で、早期に着手することによってより大きな節税効果を狙いやすくなります。
ただ、死期が予想されているときやすでに相続が始まっている段階でも諦める必要はありません。このようなぎりぎりの場面でもできることはいくつかあります。
相続直前にする節税対策の注意点
いつ人が亡くなるのか完全に予測することはできませんが、とても高齢であったり病気を患っていたり、これまでの様子から鑑みて相続の開始が予期されるケースがあります。
ですがこのような段階から生前贈与を行っても節税効果が得られない可能性が高いです。というのも「相続開始前7年以内(2023年以前の贈与については相続開始前3年以内が対象)にした贈与については、その贈与財産を相続財産として加算する」というルールが存在しているからです。
これは「生前贈与加算」と呼ばれるルールです。贈与によって将来の相続財産を減らしていても結局相続税が課税されてしまうため、課税の観点からは地道な対策が意味を失ってしまうのです。
相続直前でもできる相続税対策
生前贈与により節税効果を得ようとするのなら、上記の生前贈与加算を回避する必要があります。そこで「贈与税における特例の利用」を検討してみましょう。
教育資金の一括贈与や結婚・子育てに関する資金の一括贈与など、特定の目的で行う贈与についてはまとまった金額を非課税で贈ることができ、さらに生前贈与の対象からも外れます。ただし親から子、祖父母から孫など、贈与者は直系尊属でなければいけませんし、信託の契約を交わすなど手続き上の負担は大きくなってしまうためこの点には注意が必要です。
ほかには「不動産の購入」や「遺言書の作成」なども有効な手段です。
現金や預貯金を使って不動産を購入すると相続税評価額が下がることが多いからです。
預金5,000万円を使って建物を購入しても、相続税の計算上、5,000万円の建物とはならずそれより少ない金額(固定資産税評価額)で評価されるのが一般的です。
購入した建物を賃貸に出せば所有者自身が自由に使える部分が少なくなるため、さらに相続税評価額を下げることができます。
遺言書の作成に関しては直接的な節税効果は得られませんが、財産状況をよく理解する被相続人が相続税について考慮しながら適切に分配していくことでトータルの相続税を下げられるケースもあります。また、現金や預金など生活資金に使える財産を適切に分配するよう遺言を記載すれば、納税資金の確保にもつながります。
ただし、相続税対策の観点から遺言書を作成するときは税制に対する知識が必要となるため、税理士にも相談してみましょう。
相続開始後はできることが限られる
すでに身近な方が亡くなっており相続が開始している場合、節税対策としてできることはかなり限られてしまいます。
当然、生前贈与ができませんし、生命保険の利用もできません。
そこで贈与税に関する特例などを使うことができず、相続税課税の仕組みをよく理解し、特例などを有効活用していく必要があります。
間違っても、財産を隠したり贈与を受けていたことにしたり、不当な方法で相続税の負担を回避しようとは考えないようにしてください。
相続開始後でもできる相続税対策
相続開始後であれば、「相続税で使える特例や控除の仕組みを有効活用すること」や「遺産分割の方法を工夫すること」が大事です。
例えば被相続人の配偶者だけが使える「配偶者の税額軽減」があります。この特例の適用を受ければ、法定相続分まで相続税の負担無しで遺産を受け取れますし、法定相続分を超えるときでも1億6,000万円までは相続税の負担無しにできます。
そのため遺産の総額が1億6,000万円以下であれば、すべて配偶者が取得して相続税をゼロにすることも可能です。
しかしながら配偶者が大きな遺産を取得すると、当該配偶者が亡くなったときの二次相続で子どもたちに大きな負担がかかってしまうリスク度が上がります。
そこで、さらに将来の相続についても意識して遺産分割を行うことが重要といえます。配偶者の特例が使えても、あえて他の相続人も遺産を取得することで二次相続の負担を下げ、一次相続と二次相続のトータルの相続税額を下げられるかもしれません。
また、配偶者以外でも「未成年者控除」や「障害者控除」などの税額控除が使えるケースもあります。「小規模宅地等の特例」という土地の評価額を大幅に減額できる制度もあります。特例対象となる土地を所有している場合は、この特例を上手く適用することが相続税の負担に大きく影響してきますので、特例の要件を満たせる方が土地を取得するように遺産分割するなど、工夫を凝らすと良いでしょう。
納税資金を確保するという観点からは、「配偶者居住権」の設定も検討する価値があります。
住宅は残っているものの生活資金に使える現金・預金が少ないという場合、自宅に住み続ける配偶者が現金等を十分に得られなくなり、生活資金が不足したり納税資金が不足したりして困る場面も出てきます。
そこで自宅を①所有権と②居住権に分け、例えば①を子どもが、②を配偶者が取得するように設定すれば、配偶者は所有権の価額分だけ生活資金を確保できます。この資金を使って相続税も納めることができるようになります。
このように、相続税対策として有効な手段は多岐にわたるため、諦めず今からできることを探してみると良いでしょう。
その際税理士に相談するとスムーズに対策を進められますし、ご自身で気付けなかった別の相続税対策に気付けることもあります。