生前贈与より遺産相続の方がいいケースとは ~財産の渡し方について~
いつか亡くなったとき、その財産は配偶者や子どもなど、相続人へと引き継がれていきます。
しかし相続開始を待つ必要はなく先に生前贈与をしておくことも可能で、そのときは生前贈与ならではの恩恵を受けることができます。逆に遺産相続によって財産を承継することで得られる良さもありますので、どのように財産を後世に渡していくのか、それぞれの特徴を踏まえて選択することが大事です。
生前贈与と遺産相続の違い
「生前贈与」は、相続が始まる前、財産の所有者が亡くなるより前にする財産の贈与のことです。一般的な贈与と性質に違いはなく、相続との比較で“生前”贈与と呼んでいるに過ぎません。
「遺産相続」は、法律に従い、財産の所有者が亡くなったとき相続人へと自動的に引き継がれることをいいます。贈与は当事者間の契約を基礎としていますが、遺産相続は当事者の意思に関係なく発生します。
それぞれの重要な違いは次のように整理できます。
- 財産を渡すタイミング
- 財産を渡すための手続
- 財産の移転にかかる税金
どちらを選択しても問題ないこともありますし、手段によってはトラブルが起こったり大きなコストがかかってしまったりすることもありますので注意が必要です。
遺産相続をした方がいいケース
生前贈与より遺産相続をした方がいいケース、また、生前贈与をあえてする必要がないケースとして、次のような状況が考えられます。
遺産相続をした方がいいケースの例 | |
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財産の総額が相続税の基礎控除額より少ない | 生前贈与だと贈与税、遺産相続だと相続税が課税される。そして基本的には贈与税より相続税の方が負担は小さいが、その大きな要因として「相続税における基礎控除額が大きい」ことが挙げられる。 相続税における基礎控除額 = 遺産の総額がこの金額以下であれば申告不要となるため、先に渡しておくべき事情がないのなら遺産相続を選んだ方が税金の負担が抑えられる。 |
贈与税の特例が使えない | 生前贈与で節税ができるのは、主に各種特例が使える場面。ただし特例の多くは受贈者が子どもや孫、配偶者であることを要件としており、贈与の目的なども制限されている。 贈与税の特例を使えないときは、遺産の総額が相続税の基礎控除額を上回るときでも遺産相続を選んだ方がお得になりやすい。 |
余命宣告を受けている | 相続開始前7年以内にした贈与(2023年以前においては前3年以内の贈与)は、相続税の計算に含まれてしまうため、生前贈与の節税効果が薄れてしまう。 そのため余命宣告を受けている、あるいは死期が近いと思われる場合は、生前贈与で節税効果を狙っても意味をなさない可能性がある。 ※贈与税の特例を使ってした贈与に関しては、この「生前贈与加算」の適用を受けないことが多い。 |
財産を自分で管理運用する必要がある | 生前贈与をしてしまうと、それ以降自分自身で自由に管理運用することができなくなる。自宅や生活に使う金銭、経営権の付いた株式など、今はまだ移転させるわけにいかない財産に関しては本人が持ち続け、遺産相続によって移転させることも考えた方が良い。 |
家族仲が良好 | 生前贈与であれば特定の財産を受贈者が受け取ったことを贈与者本人の目で確認できる。そのため自分自身が亡くなった後の遺産分割協議に委ねたのでは不安があるというときには有効な手段と言える。 一方、家族仲も良好で相続人間の話し合いで問題なく財産の相続ができそうなら、あえて生前贈与を選ぶ必要はない。 |
生前贈与をした方がいいケース
生前贈与をした方がいいケースについてもいくつか紹介しておきます。
生前贈与をした方がいいケースの例 | |
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遺産分割協議で揉める危険性が高い | 遺産の取得に関して、相続人らの話し合いに任せたのでは揉めてしまいそうだという場合、争点となる財産を生前贈与で渡しておくと回避できることがある。事前に本人を交えて話し合い、納得を得て生前贈与しておけば、相続開始後のトラブルは防げる。 |
節税効果が得られる | 財産の総額が大きく、一括で遺産相続をしたのでは相続税の負担が重いという場合、生前贈与も活用して節税効果が得られることもある。 贈与税における基礎控除、その他各種特例を利用して節税効果が得られるのであれば生前贈与も行うと良い。 |
認知症に対する不安がある | 認知症になるなど、本人の判断能力が大きく衰えてしまうと、不動産などさまざまな財産について管理や処分が適切にできなくなる。所有者を移転したくても簡単にはできなくなってしまうため、事前に予防したいというケースで生前贈与が活用できる。 ただし生前贈与をしなくても任意後見制度の活用や家族信託の活用で解決できることもあるため、さまざまな観点から最適な解決策を見出すことが重要。 |
検討するときの注意点
生前贈与と遺産相続のどちらを選ぶべきか、検討を進めるときは専門家を頼りましょう。
ここでは簡単にそれぞれの利用が適しているケースを列挙しましたが、実際には簡単に最適な手段を判断できるものではありません。
例えばコストの問題一つをとっても、贈与税と相続税だけでなく、登録免許税や不動産取得税、その後のランニングコストのことなども考慮しないと「〇〇をした方がお得」と言い切ることはできません。
判断を誤ることで後に大きなトラブルを招くリスクがありますし、できるだけプロの意見も取り入れつつ検討を進めることをおすすめします。