年末調整の計算方法について具体的な手順をあげて解説
「年末調整」という用語は聞いたことがあるものの、具体的にどのように計算されているのかわからない方も多いのではないでしょうか。
ここで年末調整についての基礎知識を説明するとともに、具体的な手順をあげて計算の方法を解説していきます。
年末調整の手続きの概要
会社が従業員に給与や賞与を支払うとき、その金額から概算の所得税を差し引いて支給します。
これを「源泉徴収」と言います。
そして源泉徴収している所得税の金額はあくまでも概算の金額であることから、本来納めるべき所得税の金額との間には過不足が生じます。
そこで、1年の終わりに本来の所得税額を計算し、源泉徴収した金額との差額を算出します。
その結果、多く徴収していることが分かったときには還付をし、不足していることが分かったときには追加で徴収を行います。
これら一連の作業を「年末調整」と言います。
年末調整のスケジュール
会社の規模や従業員の数によっても異なりますが、10月頃から年末調整にかかる準備を開始する会社が多いです。
年末調整関係書類の提出期限は翌年の1月31日ですので、11月〜12月にかけて、過不足金の計算や徴収または還付、法定調書合計表や源泉徴収票の作成などの作業を進めていきます。
時期 | 作業内容 |
10月 | ・対象となる従業員の確認 ・従業員へ申告書等を配布 |
11月 | ・従業員から申告書等を回収 ・回収した書類の確認 |
12月 | ・年間給与の確定 ・年末調整の計算 ・年末調整の精算(過不足金の徴収または還付) ・源泉徴収票の作成 |
翌年1月 | ・源泉所得税の納付 ・法定調書合計表等の作成および提出 |
年末調整の必要書類
年末調整の対象となる従業員に提出してもらう書類は以下の通りです。
- 1.給与所得者の扶養控除等(異動)申告書
- 2.給与所得者の基礎控除申告書兼配偶者控除等申告書兼所得金額調整控除申告書
- 3.給与所得者の保険料控除申告書
- 4.その他必要に応じた書類
基本的に全ての従業員から回収する必要があるのが、1~3の書類です。
まず、1.「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」は、配偶者控除や扶養控除、障害者控除、寡婦控除、ひとり親控除、勤労学生控除などに関して確認をするための書類です。
2.「給与所得者の基礎控除申告書兼配偶者控除等申告書兼所得金額調整控除申告書」は、基礎控除、配偶者控除、配偶者特別控除、所得金額調整控除に関する確認をするための書類です。
そして、3.「給与所得者の保険料控除申告書」では、控除の対象となる保険料について確認し、控除額を計算します。
控除が可能な主な保険料として、以下のものが挙げられます。
- 生命保険料
- 介護医療保険料
- 個人年金保険料
- 地震保険料
- 社会保険料
- 小規模企業共済等掛金
最後に、4.その他の書類については、該当する従業員のみ提出する必要のある書類があります。
例えば、住宅ローン控除を受ける従業員であれば「住宅借入金等特別控除申告書」や「年末残高等証明書」が必要です。
また、年度途中に入社して前職の給与がある従業員については、前職の「源泉徴収票」が必要です。
年末調整の計算方法
具体的な年末調整の計算方法を4つの手順に分けて解説していきます。
STEP1:給与支給額・社会保険料・源泉徴収税額の集計
まず、STEP1として「従業員ごとに1月1日〜12月31日までの1年間に支払った給与および賞与の総額を算出」します。
このとき、その年の途中に入社した従業員について、その年に別の企業から受け取った給与がある場合にはその分も合わせて年末調整を行わなければなりません。
また、給与支払いが確定しているものの未払いになっている給与に関しても、その年の年末調整に含めますので注意しましょう。
さらに、給与の総支給額と共に、給与から控除した社会保険料と源泉徴収した金額についても集計を行います。
STEP2:給与所得の算出
次に、「給与所得の金額を算出」します。
これは以下の通り、「給与収入」から「給与所得控除」を差し引くことによって計算できます。
給与所得 = 給与収入 ― 給与所得控除額
このように算出された給与所得に対して最終的な所得税が課されます。
給与所得控除は、給与所得のある者のみが受けることのできる控除で、必要経費の相当額と考えられています。
その金額は一律ではなく、下表のように収入金額によって異なります。
収入金額 | 給与所得控除額 |
~1,625,000円 | 550,000円 |
1,625,001円~1,800,000円 | 収入金額×40%-100,000円 |
1,800,001円~3,600,000円 | 収入金額×30%+80,000円 |
3,600,001円~6,600,000円 | 収入金額×20%+440,000円 |
6,600,001円~8,500,000円 | 収入金額×10%+1,100,000円 |
8,500,001円~ | 1,950,000円 |
引用:国税庁(https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1410.htm)
さらに、従業員から回収した「扶養控除等(異動)申告書」や「基礎控除申告書兼配偶者控除等申告書兼所得金額調整控除申告書」、「保険料控除申告書」をもとに、各種控除額を計算します。
生命保険料や介護医療保険料、個人年金保険料、地震保険料、社会保険料、小規模企業共済等掛金などがここで計算されます。
STEP3:所得税の算出
次に、「所得税の金額を算出」します。
所得金額に所得税率をかけて所得税額を計算しますが、このとき、所得金額の1,000円未満は切り捨て、控除額を差し引いて計算します。
所得税の税率についても、所得金額によって異なるため、以下の表をもとに計算していきます。
所得金額 | 税率 | 控除額 |
1,000円~1,949,000円 | 5% | 0円 |
1,950,000円~3,299,000円 | 10% | 97,500円 |
3,300,000円~6,949,000円 | 20% | 427,500円 |
6,950,000円~8,999,000円 | 23% | 636,000円 |
9,000,000円~17,999,000円 | 33% | 1,536,000円 |
18,000,000円~39,999,000円 | 40% | 2,796,000円 |
40,000,000円~ | 45% | 4,796,000円 |
引用:国税庁(https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2260.htm)
STEP4:源泉徴収額と所得税額との差額の計算
所得税の金額が計算できれば、求めた金額と源泉徴収した金額の照らし合わせを行います。
その結果、源泉徴収額が本来納める税額よりも多い場合は、その差額を従業員へ還付します。反対に、源泉徴収額が本来納める税額よりも少ない場合は、その差額を従業員から徴収します。
徴収および還付は、一般的に12月の給与で精算されます。
その後、源泉徴収票の作成および配布、法定調書合計表や給与支払報告書などの必要書類を作成し税務署・市町村等へ提出して年末調整にかかる作業は終了となります。