相続税申告までの流れをわかりやすく解説!相続税の計算や申告期限に要注意
遺産が一定額以上あるとき、相続や遺贈により遺産を受け取る方は、相続税の計算と申告書の提出をしなければなりません。相続税の計算をするために必要な情報も多岐にわたり、前提として進めておかないとならない手続もたくさんあります。
相続税の申告は期限内に済ませないといけないため、相続人等は申告までの流れを把握し、滞りなく手続を進めていく必要があります。当記事でその全体の流れを紹介し、関連する手続とその期限についても紹介していきます。
相続税の申告をするまでの流れ
相続税の申告を行うには、まず、遺産の総額が確定している必要があります。その上で相続税の計算を行い、必要書類を揃え、税務署に提出しなければなりません。
各ステップの詳細を以下に示します。
取得する遺産の確定
被相続人の配偶者や子どもであるなど、法定相続人という立場にあるだけで相続税の納税義務が課されるわけではありません。取得した財産の価額に応じて相続税は課税されますので、一切の財産を受け取っていないのであれば亡くなった方と近しい関係にあっても相続税の申告・納税を行う必要はありません。
そこで、遺産分割協議により各々の取得分を確定させないと、各々の納付すべき正確な税額も計算できません。
※遺産分割協議が申告期限に間に合わないときは法定相続分で取得したものとしていったん申告することも可能。その後修正することになる。
※遺言書で相続の方法が指定されているときなどは、遺産分割協議によらず各自の取得分を把握することも可能。
さらに、遺産分割協議を行うには相続人全員の参加が必要ですし、事前に遺産の調査も必要です。
よって、各自の取得分を把握するためには「相続人の調査」「遺産の調査」を経て、その後「遺産分割協議」を行うことになります。
相続税の計算
遺産の総額、各自の取得分が明らかになれば、相続税の計算を行います。
ただ、各自の取得した財産を合計し、その価額が基礎控除額以下であれば相続税の申告を行う必要はありません。基礎控除額は「3000万円+600万円×法定相続人の数」で計算できますので、配偶者と子どもが2人で相続するとき、遺産の総額が4,200万円以下であれば申告の必要がないと判定できます。
基礎控除額を上回る遺産があるときは、相続税の計算と申告書の作成を進めます。申告書は1枚ではありません。特例や控除、債務、生前贈与、課税対象の財産などを記載する申告書が別々に設けられています。必要に応じて複数の申告諸用紙を作成しないといけません。
なお、申告書の作成に関して「相続人等が自ら作成しないといけない」といったルールはありません。税理士に相談したり作成を依頼したりすることは可能で、できるだけミスのない計算や申告をするためにはむしろ実務家への依頼が望ましいといえるでしょう。
必要書類の準備
申告書以外にも準備しないといけないものがたくさんあります。
例えば申告にあたり本人確認が求められます。マイナンバーカードや住民票の写しによりマイナンバーを確認。運転免許証やパスポートなどにより身元確認も行います。マイナンバーカードを用意すれば複数の確認書類を用意する必要はなくなります。
また、相続人であることを示す「戸籍謄本」、遺産を取得したことを示す「遺産分割協議書の写し」や「遺言書の写し」も必要に応じて用意します。
遺産に不動産が含まれるなら「登記事項証明書」等、預貯金があるなら「預金通帳」等、債務があるなら「金銭消費貸借契約書」等、遺産の内容に応じて必要書類も増えます。
慣れない作業に混乱することもあるでしょう。必要書類の漏れがあってもいけませんので、詳細は税理士に聞くか代わりに取得してもらうよう頼むと良いです。
10ヶ月以内の申告と納付
申告書を作成し、必要書類も集まれば、税務署にこれらを提出して「相続税の申告」を行います。
期限は、“相続開始の事実を知った日の翌日から10ヶ月目の日”です。
相続が始まったことを認識できていない期間がある場合は、起算日が「亡くなった日」から数日以上ずれることもあります。ただし、いずれにしろ申告までにしないといけないことは上述の通りたくさんありますので、できるだけ早期対応を心掛けなくてはなりません。
相続税の納付も同じ期限にかかります。申告書の提出と同時に納付もしておくと良いでしょう。
その他期限がある相続関連の手続
相続税の申告以外にも期限付きの手続がいくつかあります。相続人は、“10ヶ月”という期限以外にも留意しましょう。
死亡届の提出:7日以内
被相続人が亡くなった後、速やかに死亡届を作成しましょう。原則として“亡くなったことを知った日から7日以内”に市区町村役場に提出しないといけません。
また、被相続人が会社に勤めていたのであれば当該会社に対しても亡くなったことの通知を行いましょう。会社に連絡して退職手続を行えば、社会保険に関する資格喪失手続を進めてもらえます。
公的サービスの解約等:14日以内
年金や国民健康保険、介護保険など、相続人側で進めないといけない解約等の手続もあります。
これらすべての手続について“14日以内が期限”と明示されているわけではありませんが、「年金の受給停止」や「国民健康保険・介護保険の資格喪失」「世帯主の変更」「公共料金の解約」などは早めの対応が求められます。
民間のサービスに関しても、余計な料金が発生しないよう早めに解約手続を済ませておきましょう。
相続放棄または限定承認:3ヶ月以内
遺産を調査した結果、「積極財産より借入金などの消極財産(負債)が大きい」、「財産関係が複雑で承継することのリスクが判断できない」ということが分かったとき、相続放棄や限定承認を検討します。
明らかに借金の方が大きいようなケースでは相続放棄を選択することになると思われます。一方、手元に残したい遺産がある場合や明らかに損をするとまで言い切れない場合は限定承認も選択肢に上がってくるでしょう。
※限定承認をすると、弁済の責任範囲が承継する積極財産の範囲に限定される。そのため予想外に高額な借金が出てきても破産に追い込まれるようなリスクは避けられる。ただし手続が複雑で時間がかかってしまうデメリットもある。
ただし、相続放棄や限定承認をするには“自己に関する相続開始を知ってから3ヶ月以内”に手続を進めないといけません。どちらも家庭裁判所で手続を行いますが、限定承認については相続人全員で意思決定をしないと認められません。
準確定申告:4ヶ月以内
普段、確定申告を行っている被相続人が年の途中で亡くなった場合は、準確定申告を行うことで所得税を処理します。
※年金収入が400万円以下、その他の所得金額も年20万円以下なら準確定申告は不要。
期限は原則として“相続開始を知った日の翌日から4ヶ月以内”です。
確定申告と同じ、“翌年の3月15日まで”ではありませんので要注意です。
遺留分侵害額請求:1年以内
遺言書を使えば、「すべての財産を友人Aに遺贈する」、「財産の8割を長男Bに相続させる」といったことも実現可能です。
ただし、兄弟姉妹以外の法定相続人には遺留分が認められており、法定相続分の1/3~1/2までは確保することが認められています。そこで受遺者や特定の相続人に対して遺留分侵害額請求を行い、確保できなかった遺留分につき金銭で支払いを受けることができます。
しかしながら、遺留分権利者はその権利が行使できることを知りながら放置していると消滅時効にかかり請求ができなくなることがあります。“遺留分の侵害を知ってから1年”が期限ですので、遺留分の請求をするなら早めに対応するようにしましょう。