相続税の支払いに困ったときの対策~延納や物納の制度についても紹介~
相続財産の大部分が不動産や事業用資産である場合、現金が不足し、納税に大きな負担を感じることもあります。それでも税金は納めなければなりませんので、もし「相続税の支払いができないかもしれない」とお悩みの方は、当記事を参考に対策を検討していただければと思います。
相続税の納付が難しいときに考えること
相続税の納付が困難な状況に陥ったときは、以下3つの選択肢を検討しましょう。
- 納税資金の調達
・・・相続財産の一部を売却したり金融機関から借り入れを行ったりして納税資金を調達することができる。 - 延納制度の活用
・・・一定の条件を満たす場合、相続税を分割して納付することができる。この制度を使って数年~十数年程度に分けて納付していく。 - 物納制度の活用
・・・金銭及び延納での納付が困難な場合、相続した財産そのもので納税することができる。この制度を使って、不動産や有価証券などを納める。
それぞれメリットとデメリットがあり、相続人の状況によっても適用できる方法は異なります。また、これらの制度を利用する際には、定められた期限内に手続きを行う必要があるため、早めの対応が求められます。
相続税納付のための資金集め
相続税を納付するために、以下の方法で資金を捻出することも考えてみましょう。
資金調達方法 | 特徴 |
---|---|
相続財産の売却 | ・不動産や株式などを売却して現金化。 ・売却益に譲渡所得税がかかる場合があるため要注意。 |
生命保険金の活用 | ・納税資金や生活資金として使える現金が相続開始後に手に入る。 ・相続開始前の契約が必要。 |
金融機関からの借り入れ | ・まとまった資金を短期間で調達できる。 ・返済計画を立てる必要がある。 ・納税を目的とした借り入れは難しいことが多い。 |
親族間での融資 | ・柔軟な条件で借りられる可能性が高い。 ・親族間トラブルにより人間関係が悪化する恐れがある。 |
無理なく納税資金を確保することが大事です。調達自体に成功しても、その後返済リスクが生じることもありますし、ご自身の経済力など状況に合った選択を行いましょう。
相続税の延納制度について
相続税には「延納」の制度があります。
一定の条件を満たす場合に、相続税を分割して納付することができる制度です。この制度を利用することで、資金不足の問題を解消し、計画的に納税を行うことが可能となります。ただし以下のような条件、手続きが必要であり、無条件に利用できる制度ではないことに留意しましょう。
- 延納制度の主な利用条件
- 金銭で一括納付することが困難な事情がある。
- 延納税額に相当する担保を提供できる。
- 延納制度の主な手続き
- 相続税の申告期限(被相続人の死亡の日の翌日から10ヶ月以内)までに、「相続税延納申請書」や「担保提供関係書類」などの書類を税務署に提出する。
- 延納申請が認められてから、納付計画に従い分割納付を行う。
なお、延納の際には利子税がかかります。利子税率は延納期間や申請時期によって異なりますので注意が必要です。
延納が認められないケース
以下のような場合は、延納が却下される可能性が高くなります。
- 相続税等の滞納歴がある
例)5年前に贈与税を滞納し、延滞税を支払った経歴がある。 - 延納に必要な担保を提供できない
例)相続した財産のほとんどが現金化の難しい美術品であり、延納税額に見合う不動産や有価証券などがない。 - 納税資金の調達が可能であると判断される
例)相続した不動産以外に個人で保有する上場株式や預貯金が十分にあり、それらを活用すれば納税が可能だと評価できる。
税務署は延納申請を慎重に審査します。却下されることもありますので、客観的に延納の必要性が伝わるような資料を準備することが重要といえます。
相続税の物納制度について
相続税には「物納」の制度もあります。
これは、延納によっても金銭での納付が困難な場合に、相続した財産そのもので納税を行うことができる制度のことです。
- 物納制度の主な利用条件
- 延納によっても金銭で納付することが困難な事由がある
- 物納申請財産が、相続税の課税価格計算の基礎となった財産であること
- 物納申請財産が、物納に適した種別・状態であること
- 物納制度の主な手続き
- 相続税の申告期限(被相続人の死亡の日の翌日から10ヶ月以内)までに、「相続税物納申請書」等を税務署に提出する
- 税務署による審査と物納財産の調査が行われる
- 物納が許可された場合、物納財産の収納手続きを行う
物納が認められないケース
以下のようなケースに該当するときは、物納が認められない可能性が高くなります。
- 物納するのに不適格な財産である
例)相続した建物が老朽化しており、倒壊の危険があるため修繕や取り壊しに多額の費用がかかる。 - 物納申請財産の収納価額が著しく低い
例)相続した美術品の評価額が1,000万円だが、実際の市場価値が100万円程度しかないと判断される。 - 物納申請財産に係る権利関係が複雑で管理処分が困難
例)相続した不動産に抵当権や賃借権が設定されており、権利関係の整理に多大な時間と費用がかかると予想される。
却下後も再申請は可能ですが、手続きが長期化すると利子税の増加という問題も発生してくるため、専門家も積極的に利用するなどして対策を講じることが重要といえます。
相続税の納付に関する注意点
相続税の納付に際して以下の点にもご注意ください。
手続きの期限
相続税に関わる各種手続きには期限も設けられているため、そのまま納付をするにしろ、特別な制度を利用するにしろ、早めに準備を進めていく必要があります。
たとえば納付期日、および延納の申請や物納の申請については「被相続人が亡くなった日の翌日から10ヶ月」という期間に注意しないといけません。
税理士の活用
相続税の申告や納付方法の仕組みは複雑です。専門的な知識が必要となる場合が多いため、税理士の活用を検討することをおすすめします。税理士を活用することで「正確な相続税額を算出できる」「適切な納税方法の提案をしてもらえる」「各種申請手続きのサポートが受けられる」「税務調査が必要になった場合にも対処してもらえる」などの利点が得られるでしょう。
特に以下のケースに該当するときはその必要性が高くなります。
- 相続財産が高額
- 事業承継を伴う
- 相続人の数が多い
- 延納や物納の申請を検討している など。