遺留分についてわかりやすく解説| 子どもがいるときの遺留分の割合や計算方法など
遺言書を使えば遺産を相続人の手に渡さず、その他親族や友人、誰に対しても与えることができます。
しかし、亡くなった方(以後、「被相続人」と呼びます。)の夫や妻、子どもなどは相続人になることが法的に予定されていますので、相続開始後は「遺産は受け取れるもの」と考えていてもおかしくはありません。また、被相続人の収入を頼りに暮らしていた方からすると「遺産があるからなんとか生活できる」という期待も抱いているかもしれません。
そこでこの期待に応えること、残された家族の生活を保障することを目的に「遺留分」という制度があります。遺産に頼る必要のある方、遺言書により一切の遺産が受け取れそうにない方などは、この遺留分制度のことを知っておくと良いでしょう。
遺留分は最低限留保できる遺産のこと
遺留分を一言で説明すると、「一定の相続人に最低限留保される遺産のこと」といえます。
遺産分割の基本的な方法は、民法に規定された法定相続分による分割です。そこで相続人には本来、遺産の受け取りが予定されていると考えられます。しかしながら、その遺産の受け取りが叶わなくなるケースもあります。
そんなときでも、要件を満たせば遺留分を主張して遺産のうち遺留分に相当する金銭を請求することができるのです。
このような遺留分の制度が設けられている理由はいくつかあります。
1つは遺産の形成に寄与していた可能性があるということです。特に被相続人の配偶者について、形式上は財産の所有者が被相続人であっても、その形成の基礎には日々の協同活動があったといえます。一方が家事労働に従事することで他方が稼ぎを得ることに集中できたのであれば、配偶者も遺産を作り上げた一員と考えられます。
また、被相続人が扶養すべきであった人物の生活保障を図る目的もあります。配偶者とは協力して生活を営むこと、子どもに対しては扶養する義務があります。生前だとその義務を果たすために財産を使う必要があり、好き勝手に散財すべきものではありません。遺産として形を変えてもその必要性がなくなるとはいえず、遺留分を認めて生活を守るべきと考えられる者には財産が留保されているのです。
遺言書に反して遺産が取得できる
元々遺産は被相続人のものであり、生前であれば被相続人が好きなように処分できたはずの財産です。家族に与えることも、兄弟に与えることも、その他友人など第三者に与えることも生前なら可能です。
しかし贈与や売却をするには契約を交わす必要がありますので、自身の死後は新たな契約に基づく自由な処分はできなくなります。
そこで効果を発揮するのが遺言書です。
遺言書を作成することで最後の意思表示をすることができ、財産の行方についても指定することができるのです。
ただし、上述の通り一部の相続人には財産を留保しておく必要があります。
遺留分が認められる方からすると、「遺言書に反してでも遺産を確保できる」ということになります。ここで注意すべきは、遺産そのものを渡さない・遺産そのものを取り返すことが確約される制度ではないということです。
遺留分制度により受遺者(遺贈により財産を受け取る者)に請求できるのは原則現金です。遺産の現物そのままの形ではなく、遺留分相当額を算定して、その金額を現金で支払ってもらうことになります。
また、遺留分制度では請求権が発生しますので、権利を行使しなければ支払いは受けられません。自動的に遺産が確保されることはなく、受遺者に対して請求を行う必要があります。
兄弟姉妹に遺留分はない
遺留分が認められるのは次の人物です。
・被相続人の配偶者
・被相続人の子ども
・被相続人の子どもを代襲相続する者(孫など)
・被相続人の直系尊属(父や母、祖父母など)
これらの人物はいずれも相続人となり得る人物です。ただし順位が定められており、子どもがいるときは直系尊属が相続人になることはできず、さらに直系尊属がいないときでなければ兄弟姉妹は相続人になることができません。
遺留分においても同様で、子どもが相続人になるときは直系尊属に遺留分は認められません。当然、子どもが生きているときは代襲相続も起こらず、孫に遺留分が認められることもありません。
また、兄弟姉妹が相続人になる場合であっても遺留分は認められません。被相続人の兄弟姉妹は相続人になることができても、遺留分権利者になることはできないのです。配偶者や子どもなどに比べると財産形成への寄与も一般的には小さいと考えられますし、扶養関係も希薄と考えられるからです。
遺留分の割合と請求額の計算
遺留分の割合を調べるには、次の手順を踏む必要があります。
① 遺産全体を占める遺留分の割合(総体的遺留分割合)を調べる
② 遺留分権利者個別の法定相続分を調べる
③ 総体的遺留分割合に法定相続分を乗じて各々の遺留分割合(個別的遺留分割合)を調べる
遺留分全体が遺産を占める割合をまず把握しないといけませんが、多くの場合は「1/2」であり、被相続人の直系尊属のみが相続人になるときだけ「1/3」となります。
そして法定相続分についてですが、「配偶者+子ども」「配偶者+直系尊属」「配偶者+兄弟姉妹」の相続人の組み合わせに応じて割合が次の通り異なっています。
| 配偶者 | 子ども | 直系尊属 | 兄弟姉妹 |
---|---|---|---|---|
配偶者+子ども | 1/2 | 1/2 | ― | ― |
配偶者+直系尊属 | 2/3 | ― | 1/3 | ― |
配偶者+兄弟姉妹 | 3/4 | ― | ― | 1/4 |
※子ども・直系尊属・兄弟姉妹同士は、さらに均等に分割して各々の法定相続分を計算する。
例1:配偶者と子ども3人がいる場合
「配偶者+子ども3人」の組み合わせで相続人がいるシチュエーションを考えてみましょう。遺留分の割合は次の流れに沿って調べることができます。
① 総体的遺留分割合:1/2
② 法定相続分:配偶者は1/2、子ども全体で1/2(1人あたり1/6)
③ 個別的遺留分割合:
> 配偶者 ・・・1/2×1/2 = 1/4
> 子ども1人あたり・・・1/2×1/6 = 1/12
仮に遺産が6,000万円だとすれば、単純計算で配偶者の遺留分は1,500万円、子ども1人あたりの遺留分は500万円となります。
この金額に相当する遺産を取得したときは、遺留分の侵害はありませんので請求もできません。しかし遺贈が行われており配偶者の取得できた価額が1,000万円であったときは、遺留分1,500万円に不足する500万円を請求できることとなります。
※このときの請求を「遺留分侵害額請求」と呼ぶ。
※遺留分権利者が過去に受けた贈与も考慮するため、この例において、配偶者が生前贈与で500万円をもらっていたのなら遺留分の侵害はなく請求もできない。
例2:配偶者と親2人がいる場合
次に「配偶者+親2人」の組み合わせで相続人がいるシチュエーションを考えてみます。
④ 総体的遺留分割合:1/2
⑤ 法定相続分:配偶者は2/3、親全体で1/3(1人あたり1/6)
⑥ 個別的遺留分割合:
> 配偶者 ・・・1/2×2/3 = 1/3
> 親1人あたり・・・1/2×1/6 = 1/12
仮に遺産が6,000万円だとすれば、単純計算で配偶者の遺留分は2,000万円、親1人あたりの遺留分は500万円となります。
遺留分侵害額の考え方については前項同様です。遺留分として認められる金額と、実際の取得分との差額を計算し、不足分を受遺者等に請求することになります。
時効による請求権消滅に注意
遺留分制度は、相続人のその後の生活を守るために重要な役割を果たしますが、法律上、請求権の行使には期間の制限がかけられています。
(遺留分侵害額請求権の期間の制限)
第千四十八条 遺留分侵害額の請求権は、遺留分権利者が、相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から一年間行使しないときは、時効によって消滅する。相続開始の時から十年を経過したときも、同様とする。
請求する権利は、①相続開始の事実を知った、②遺産の贈与や遺贈が行われたことを知った、③遺留分が取得できず侵害されている事実を知った、の3点を満たしたときから1年で時効消滅します。
身近な方が亡くなった後は、葬儀や各種契約の解約、遺産の調査、遺産分割協議、相続税の計算など、しなければならないことはたくさんあります。気がついたときには1年が経過していたという事態も起こりかねませんので、「遺産があまり受け取れていない」と感じたときには専門家に相談することが重要です。