現金を相続するときの相続税 ~相続税の計算や注意点、節税対策について~
現金はほかの資産と比較して遺産分割が容易で、相続後も生活資金として使いやすかったり納税資金として使えたり、扱いやすい資産といえます。
一方で、評価額が明確で評価減などの工夫の余地がないなどの特徴も持ち、その相続にはメリットもデメリットもあります。
もし現金が残っているときはどのような点に注意すればいいのか、ここで確認しておきましょう。
現金を相続する方法
相続財産は「遺言による指定」「死因贈与契約に基づく贈与」「遺産分割協議による分配」などの方法で取得します。遺言書が作成されていたり死因贈与契約が締結されていたりする場合は遺産分割協議に優先しますので、被相続人が別途意思表示を残さなかった場合に遺産分割協議で取得するという流れになります。
財産の内容が現金であっても例外ではありません。ほかの財産と同じように、上記の方法に従い相続人や指定を受けた第三者が取得します。
また現金は物理的な分割が容易であるため、ほかの財産と比べて遺産分割を要する場合でも比較的スムーズに進むケースが多いです。
たとえば不動産だと現物を分けることが難しいうえ相続登記などの手続きも必要となります。
しかし現金なら相続人の法定相続分ぴったりに分けることも可能なうえ、自分のものとするのに特別な手続きが必要ありません。
現金があるときの相続税について
現金の相続税評価額は額面通りであり、不動産のような評価減の余地がありません。相続時点での実際の金額がそのまま相続税の課税対象となります。
これは国内通貨だけでなく外貨についても同様であり、相続開始時の為替レート(TTBレート:Telegraphic Transfer Buying Rate)を使って日本円に換算した金額が評価額となります。
ただし、現金やその他資産の相続税評価額を合計しても基礎控除額を超えないときは課税遺産総額が0円となり、相続税を納付する必要はありません。
タンス預金の存在に注意
被相続人が財布にすべての現金を入れているとは限りません。
あえてわかりにくい場所に隠す・貯めているケースもあり、これを「タンス預金」と呼んだりもします。
タンス預金ももちろん被相続人のものであれば相続財産であり、相続税の課税対象です。
そのため遺産分割協議や相続税の計算を行う前には必ずタンス預金の存在も疑い、被相続人の自宅をよく探しておいてください。
銀行の貸金庫も同様に注意が必要です。
現金や金塊などを取引のあった銀行の金庫に置いてあるケースがあるため、取引の可能性がある金融機関を早めにあたって確認を済ませておきましょう。
みなし相続財産に注意
被相続人が持っていた現金とは異なりますが、被相続人を被保険者とする「死亡保険金」、被相続人が勤めていた会社からの「死亡退職金」を受け取ったときは、相続税の計算に注意が必要です。
これらの金銭は(民法で言う)相続財産にはならず、遺産分割協議などを行うことなく所定の受取人のものとして渡されます。
しかしながら、相続税法上はこれを相続財産とみなすことになっているのです。
[500万円×法定相続人の数]で算出される金額までは非課税で受け取れますが、その額を超えた分については一般的な相続財産と同じように相続税の計算に含めましょう。
遺産隠しをしない
現金には所有者の登録制度などがありませんし、第三者がその存在を正確に把握することは難しいです。
ただし、その性質を逆手にとって、こっそりと懐に入れるような行為は決してしないようにしましょう。
相続人間、あるいは受遺者などの第三者との間で揉める可能性があるだけでなく、場合によっては犯罪が成立することもあります。
また、意図的に相続税の申告を行わなかったことに対し税制上のペナルティを受けることもあります。
※横領罪や窃盗罪などが成立する可能性があるが、これらの罪に関しては親族間特例が適用されると刑は免除される。
ほかにも相続税法違反によって懲役刑や罰金刑の刑事罰が科される可能性もある。
「現金ならバレないのではないか」と思う方もいるかもしれませんが、口座からの引き出し履歴、その他さまざまな記録から現金の存在が発覚することもあり得ます。
現金を相続するメリット・デメリット
現金を相続する最大のメリットは、換金や分割の手間が不要である点です。
不動産や美術品などの資産とは異なり、評価額の算定や分割方法についての争いも生じにくいです。
また、相続税の納付が必要な場面においても現金がそのまま納税資金として使用できるため、資金繰りの心配が少ないです。
さらには相続後の運用方法を自由に選択できるため、相続人のニーズに合わせた資産管理が可能というメリットも挙げられます。
一方、現金相続のデメリットとしては、評価減の余地がないため相続税の負担が減ることが無い点が挙げられます。
不動産などは小規模宅地等の特例により最大80%の評価減が可能な場合もありますが、現金にはそのような特例の適用は一切ありません。
現金が多いときの節税対策
現金のまま相続した場合、納税資金や生活資金に使えるという点では有益ですが、納める相続税の額を抑えるためにできることはほとんどありません。
一方で、まだ相続が始まっていない段階なら節税対策の手段も選ぶことができます。
たとえば現金を使った対策として次のような例が挙げられます。
生前贈与 | ・特別な制度を利用しなくても、毎年110万円の基礎控除内に収めて贈与すれば非課税で受け取ってもらうことができる。ただし贈与から7年以内に相続が開始すると贈与財産でも相続財産に含めなければならない(生前贈与加算)。 ・子どもや孫などに対し、教育資金・結婚や子育て・住宅取得等の目的で現金を信託して一括贈与すれば、1,000万円や1,500万円などまとまった額を非課税にできる。ただし手続きが必要で、所定の要件を満たさなければ適用できない。 |
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生命保険の活用 | ・生命保険契約を保険会社と交わし、残っている現金を使って保険料を納めれば、相続財産となる現金を減らしつつ受取人に保険金を渡すことができる。 ・みなし相続財産として課税対象になるが、法定相続人の数に応じた非課税枠が使えるため、仮に法定相続人が2人いれば1,000万円まで非課税で渡せるようになる。 |
不動産の活用 | ・現金を使って土地や建物を購入すれば、その後相続が開始しても現金ではなく不動産として相続税評価額が算定される。 ・不動産に形を変えることにより購入価格より大きく減額することができる可能性がある。ただし固定資産税など継続的に発生する維持費には要注意。 |
その他状況に応じた最適な節税方法、相続の手続きや相続税申告についてのアドバイスが必要な場合は税理士を活用すると良いでしょう。